彼と彼女の中庭/石田とわ
 



それは引っ越しが終わり、ようやく新しい家に慣れたころ
突然やってきた。
        
我が家でなくても、彼じゃなくてもよかったはずだ。
何度そう思ったことだろう。
この時ほど神様を恨んだことはない。
いや、きっと神様なんていないのだ。


この部屋の窓から見える景色は一面見渡す限りの緑に覆われている。
それはかなしくなるほどに眩しい。
         
「外へ散歩に行かないか」
彼の声に慌てて窓から離れ、起き上がろうとする彼の背中を支える。
「大丈夫だ」
そっと手を離し足元のスリッパを揃える。
手のひらに当たった背骨が悲しかった。
       
[次のページ]
戻る   Point(3)