彼と彼女の買い物/石田とわ
らも
懸命に説明をしている。
不思議な気がする。
彼女は洋服でもなんでもよく衝動買いをする。
けれど、彼は決して衝動買いなんかしない。
ましてや家、マンションなのだ。
あきたから引っ越すというわけにはいかないのだ。
広告を一枚見ただけでこんなに簡単に決めてしまっていいものだろうか。
「縁があったんだろ」
あとから彼はわたしにこう言った。
あれよあれよと若い担当者が驚くべきスピードで話は進み
我が家はマンションの12階を仮契約した。
その日のお昼はいつもの蕎麦屋に行ったのだがはじめて
蕎麦ではなく「親子丼」を頼んだ。
彼女は浮かれて「上天ざるそば」を頼み、彼に明日手付金を払ってきてと
エビを咥えながら話をする。
彼は「もり」をさかなに杯を傾け、彼女の話に黙って頷く。
親子丼をつつきながら今年は忙しくなりそうだなと
彼と彼女の買い物に小さなため息をつく。
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