人満/塩見
 
そうしていると、そのヒトは口を開いてこう言った。

なんでやり返さない、殴り返してこない、なんの抵抗もしないんだ。
ネズミだって喰われそうになればネコを逆に喰らう、
カエルだってヘビに睨まれ動けなくなっても最後まで抵抗する、
飼いイヌだって殴られれば飼い主の人間に牙を向く、
なのになんで、お前は同じ人間に殴られているのに殴り返さないんだ。

そう言っている間もそのヒトはワタシを見ていたし、ワタシもそのヒトの目を見ていた。


・・・つまらない

しばらくしてそのヒトはそう言うと、歩いて何処かに消えていった。
ワタシはそのヒトが消えていった道をただ見つめている、
そして思う、あの時、あのヒトの瞳に映っていたワタシは、あのヒトと同じ人間だったのだろうか。
人間にも満たない別のナニカだったのではないか






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