スープのこと/はるな
なにかなしい。知らなかった。
まいにちお湯を沸かす。そして、一日のおわりに、髪を乾かす。
夫の体温は高い。今月も(いつもどおり)ぴったり28日で月経が来た。
窓は曇っている。磨いていないから。
いろいろなことが起こるけれど、信じられないのは、一日ずつ似たような生活を並べ、それでも季節が何度も変わるほど生きていることだ。そのあいまに恋さえして。
思い出せる(数少ない)できごともぜんぶ嘘みたいだ。
うすっぺらい実感。春もののワンピース。
夫はやさしい。あたらしい靴を買ってくれるし、ごはんをたくさん食べてくれる。わたしの種を笑いとばしてくれるし、手をつないで眠ってくれる。夫はわたしとはぜんぜんちがう人間だ。夫は決してわたしに歩み寄らない。そこにいて、わたしのことを知っていてくれる。
わたしの思想は、わたしが好きな人びとを傷つける。
いつも夫が帰ってくるまえに、わたしはくるまっている毛布から出て、洗濯物をたたんで、ノートを閉じる。傷口にいちばん上等の絆創膏を貼って、温めたお皿を並べる。
そして、できあがった(にちがいない)玉ねぎのスープ。
[グループ]
戻る 編 削 Point(1)