彼と彼女とふくれっつら/石田とわ
込んだ彼のビーフシチューの美味しさと
肉の柔らかさはどこの店にも負けない。
すっかり陽はくれた。
「さぁ、夕飯にしよう」
彼は彼女のふてくされた様子を気にかけることなくいつもと
同じ調子で食事の支度をはじめる。
「いただきます」
彼と私の前にはビーフシチュー、パン、ブロッコリーのサラダが
並んでいる。
彼女の起き上がる気配がする。
「ワインが飲みたい」
彼は笑ってグラスを取りにキッチンへ向かう。
「今夜はみんなで一緒に飲もう」
彼の手にはグラスが三つ。
「ごくろうさま」
彼のその一言で彼女はにっこり笑い、一緒に食卓につく。
さっきまでふてくされていたのが嘘のように彼女は無邪気に笑う。
彼でなければやっぱり彼女は扱えない。
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