彼と彼女とワインの夜/石田とわ
 

ワインのボトルが顔をのぞかせている。
       
「ただいま」
彼は帰るとキッチンへ立つ彼女にいつもと同じ笑顔を向ける。
着替えるとそのままリビングへ行き、先ずは夕刊に目を通す。
           
彼は淡々としている。

彼女が料理をつくっても、つくらなくてもその態度も言葉も変わらない。
今夜のように自分からキッチンに立つ彼女に「めずらしいね」などとは
言わないのだ。

「おかえりなさい」
黙々と料理をつくる彼女は碌に彼のほうを見ようともしない。
彼女のそんな姿やカウンターに置かれたワインをみれば
なにか嫌なことがあったのだろうとわたしでも想像できる。

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