痩せた猫/そらの珊瑚
声がする
崖っぷちに
かろうじて
爪を立て
呼んでいる
誰かを
よるじゅう
求めている
雨に打たれて
傘も持たない
家もない
母もない
優しい思い出も持たない
痩せた猫が
わたしを呼んでいる
骨と皮だけになり
眼も見えず
それでも
おまえは呼ぶことを止めない
ふるえながら
恨むこともせず
ひたすらに
生きることを止めない
そっと
抱けば
一輪の野の花のように
軽い
たったひとつ残った熾火のように
かすかな
熱
痩せた猫が
今夜も
わたしを呼んでいる
なけなしの声で
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