彼とわたしとぶり大根/石田とわ
ばをわたしは天ざるを頼む。
ちょっと奥まったところにあるこの蕎麦屋は、一見普通の民家にしか見えない。
そのためかおいしい割には混んでいるのをみたことがない。
本を読みながらゆっくり水を飲むように彼は酒を飲む。
静かな秘密の時間。
彼女は知らない。
彼がたまに杯をふたつ頼み、頷くわたしにゆっくり酒を注ぐのを。
日曜の午後、私は少し大人になった気分で頁をめくる。
帰ったらぶり大根の作り方を教わろう。
ほろ酔い加減の頭に彼女の「ただいま」の声がする。
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