漏出する汚染水のなかの『サザエさん』/動坂昇
 
竜丸の被爆から3年が経ち、それでもまだアメリカがビキニ環礁で水爆実験をつづけていた時代だ。このころ、核保有国が次々に核実験を行っていたせいで、大気中に含まれる放射性物質が増加していた。
 このたった4コマは、そんな時代の縮図になっている。見ればわかるように、フネとサザエの不安をよそに、マスオはまったく脳天気にふるまっている。母親たちはとくに子どもたちの生命を案じてかいちはやく放射性物質による食品汚染の情報を集めているのだが、父親は自分の楽しみばかり気にかけて母親から指摘されるまで心配すらしていなかった。原作者がいかに社会そのものを鋭くとらえて戯画化したかがわかる。
 
 彼女が生きていたらいまの時代にどんなことを思い、どんな家庭像を描いただろう。もしも『サザエさん』が、原作者のすでに亡きことをいいことに、社会風刺ではなく逆に何らかの広告宣伝のために使われるのだとしたら、これほど皮肉なことはない。
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