彼と彼女の本棚/石田とわ
ーを失くしても何にも言わないだろう。
たかが本のカバーだ。
彼女も彼がどれだけ本を大切に扱っているかわかっている。
だから読み終えるといつも慌ててカバーを探すのだ。
きちんと彼と彼女の本棚に並べるために。
何も言われない怖さを彼女とわたしは知っている。
彼女は言う。
カバーを失くしても彼は怒らない。
ただ悲しむだろうと。
カバーのない本を悲しむのか、失くした行為を悲しむのか
わたしにはわからない。
彼女はソファの下をのぞき込みカバーを探している。
教えるかわりに明日の休みは彼女の得意な
鶏肉とチンゲン菜煮込みをつく
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