やさしい世界/まーつん
 
ったとしても驚かない。僕は自意識過剰なおっさんだ)。楽しい女の子だ。僕より十歳若く、生き生きしていて、明るく、今夜は、YouTubeにつなげたノートパソコンから流れる、アデルの曲に合わせて歌っていた。

 無邪気に笑い、緑のマルボロを吸い、なぜいつも怖い顔をしているのと僕に尋ねる。僕はそれに答える代わりに、自分の好きな曲を教える。台風が去った後の、生暖かい夜の風が吹く。雲の下を点滅しながら飛んでいく航空機を見上げながら、僕は自分が怯えていることを彼女に悟られなければいいと思う。楽しいことが怖いのだ。まるで浅瀬に出てきた深海魚のように、抑圧という名の檻の中から出てきた自分の心が、風船のようにポン
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