春ー帰郷/……とある蛙
斜面を駆け下りようとつんのめり
ノリ地の草原(くさはら)に身を投げ出して
空を見上げた
空は晴れ渡っていたが
白く山の端がぼやけている。
此処まで歩いてきた道のりは
安易なもので
ファミレスのナプキンに
ボールペンで書いた地図が頼りだ。
道はぶれた直線
目印は適当な黒丸
目的地はココ
書いた人間は
つぶれかかった店のバイトの店長
歩き始めから空は快晴で
雲一つ無いなどと
鶯が囁く
山の麓には桜の樹
満開の桜の花びらが
風に吹かれて頭上を舞う
川岸の土手の上を
満足げに歩く父親に連れられ
一歩二歩
昔の想い出を頼りに
知り合いのいない生まれ故郷を歩く
一歩二歩
いつまで行っても辿り着かない
記憶の家は川の向こう岸から動かない
一歩二歩
そのまま土手の斜面に足をとられ
今、水際に片手をとられ
白っぽい青空に視界をとられた
頭上に広がる空は
雲一つ無く快晴だ。
どうでも良くなり
そのまま草に埋もれ
眠りに落ちる
寒い
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