浮顔/服部 剛
 
雨にうすく濡れた歩道の中心に
盲人用の黄色い凸凸道が
遠くへと敷かれている

いつもそ知らぬ顔で歩いていたが
凸凸道を求めているのは
よろけた歩みで目線の定まらない自分だった

黒いこうもり傘で身を覆いながら
濡れた凸凸道を見下ろすと
歩いても 歩いても
うなだれて 横たわり 目を閉じている
羊の顔が
黄色い路面の裏側に
うっすらと閉じこめられている

柔和にうなだれた羊の顔を
この足が踏みにじっていたと思うと
足裏は鈍い痛みに腐れてゆく

自分を守ることに精一杯な僕は
たたんだこうもり傘の切っ先で
気付かぬうちに君の胸を抉(えぐ)っていた

僕や君の胸の内側にはひとつの部屋があり
窓を開いてひろがる空に
うっすらと浮かんでいる羊の顔
閉じた瞳に涙を滲(にじ)ませて


   
  
 * 初出 神奈川新聞 ’04 10月26日 文芸コンクール・佳作



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