ある哲学者との対話 /服部 剛
食卓に置かれた長方形の皿に
横たわる、くろい目の秋刀魚は
いつか世を去る
私の象徴として、この口に入る
*
日常の素朴な場面を絵に描いた
一枚の布をバケツの水に浸し
両手でぎゅりり…と絞る
*
一滴の水を――
いのちの水を――
私の渇いた魂は飲みたい
*
両手を広げるきりすとの内に
一本の木があり
一本の木の内にきりすとがあり
彼こそ、全てを貫くひとすじの道である
*
九十九匹の群から逸れた
一匹の迷える羊の心に
ひかりの原石はある
*
君の弱点を引っくり返してごらん
そこに小さい緑の芽が出て
世界に一人の君という
花の顔は咲くだろう
*
ひとりの人の内に
宇宙は、ある
聴こう…無数の鈴を密やかに鳴らす
あの星々の合唱を
*
私の日常の
一挙手一投足は
ひかりの人の像を、ほる
彫刻である
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