蝉の声/Lucy
 
季節はずれの蝉が鳴いている

故郷の林
白樺の梢
揺れる枝葉の間から
まっすぐに目を射る日ざし

緑に揃う稲
走って渡る
あぜ道をよぎる夕方の風
「おとうさーん、ごはんですよー」
遠くで 父が片手を上げる

いつまでも変わらない風景が
あった

足元の草むらから
ふいに飛び立つ 翼
バッタだったのか
ひばりだったか
姿を現すことなく
殺気だつ蛇の素早い動きだったか
竦んで立ち止まる記憶が翳む

少しずつ回転する空
ゆっくりと動く白い雲
私の耳の中に
夏がひろがる

「突発性難聴ですね。」と
目の前の医師が告げる






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