本のチカラ/石川敬大
 

 気難しい顔で、本を読んでいた
 犬が
 ニッと笑った。
  ――それには訳がある。

 犬の気難しさより
 笑いの
 その意味の落差のほうが
 カクッと おもしろかったのであり
 気難しさに
 笑いが
 まさったのであって
 もう笑いが誘発して
 とまらない。とまらない。
 わらう。わらう。

 となりの犬
 あっちの犬
 そっちの犬
 こっちの犬

 歯茎をみせて
 クックッわらう

 狼煙のような遠吠え
 ならぬ
 笑いの連鎖が、つながってゆく
 犬族たちに。

      *

 ぼくは
 犬が読んでいた
 あの、本を
 むちゃくちゃ手にいれて
 むさぼり読んでみたくなる。
 本の
 正体を知りたくなる。

  ――それが
    本のチカラ。



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