朝の光景/オキ
るか。あのキリストだ
ぜ」
「魚屋よ、お前の声が俺の耳に届かなくな
ってきたぜ」
「無理もねえ。肉が薄くて朝日が透けるほ
どだもんな。次は、あんたを買っていって、
料理してくれるお客さんに任せようぜ。
最後は、このあんこうおいしいね、と絶賛
してくれるその家の家族だ」
鮟鱇はもう話しかけてこない。
魚屋は蛇口を全開にして包丁を洗う。飛び
散るしぶきに、朝の光が反射する。
朝日は通りを行き交う車の屋根に、フロン
トガラスに、魚屋のショーウインドーに、
店先に並ぶ青魚に、水滴の光を微細な粒子
に砕いてばらまく。あるいは拡大して光の
洪水を現出させる。
日の出とともに、ごく自然に、されども容
赦なく、生きとし生けるものに光の洗礼を
浴びせる。朝が生まれる。新しい創生が始
まる。
戻る 編 削 Point(3)