朝の光景/オキ
 

吊るした鮟鱇の、ひとところに包丁を
入れると、ばさりとまとまって肉の落
ちる箇所がある。
「これで大分軽くなっただろう、あん
こうさん」
魚屋は、そう声をかけるようにしてい
る。
「ああ、楽になった。ところで魚屋よ、
俺は天国に行けるかな」
隙間だらけの骨の中から声が洩れる。
「行けるさ」
「どうしてそれが判る? お前みたいな
屑人間に」
「判るさ。奇しくもお前はいま、俺を屑
人間と呼んだが、あんこうさん、あんたは
俺みたいな屑みたいにちっぽけなものにも、
従順だったからな。『最も小さなものの一
人にしたのは、私にしたのである』って言
ったのは、誰かわかるか
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