狐火/オキ
るくらいに焼いてくれ」
と言った。
「へい」
と主は返事したものの、おかしなことを言うお客だと、
ちらっとこちらを見た。その顔がどこか狐に似ていた。
樽酒と煮込みが先に来て、酒をちびりちびりやってい
るところに、厚揚げが運ばれてきた。
「このくらいで勘弁してください。そう店長が言ってま
した」
と若い女店員が言った。厚揚げには二箇所かすったよ
うな焼け痕がついているだけだった。
「いいよ」
と私は煮え切らない返事をして、厚揚げの皿を引き寄
せると、
「これでもか!」
とフォークをつき立てた。フォークが皿に届き、狐が
キィーッと鳴いた。
これで勝負ありだ。
私は一息ついて、本格的に酒を飲みはじめた。
おわり
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