古い社の杜/月形半分子
 
この杜にも春が訪れたのだなぁ
木々の間をいつの間にか青々とジャゴケがおおい始めているではないか
ほら、何やら土の中から音がする
あれは土をはむ音
あの無酸素にも耐えうる土壌生物たちのお目覚めだ

音といえば、春は水音から賑やかになるな
朝露が枝葉やスギゴケからポツンポツンと滴り
涌き水はいく筋にも別れさらさらと流れ池にもたまる
森が雨に打たれるのも春の音のひとつかも知れない

雨に濡れ泡で膨らんだ卵塊から、とうとう命の孵る日がやってきた
よくお聞き、あれは一匹、一匹、オタマジャクシたちが池に帰っていく音
喰われる命の数を超えて生まれた命が森に旅立っていく、始まりの音だ

[次のページ]
戻る   Point(3)