残り雪/そらの珊瑚
 
人は
たくさんの事柄を
忘れながら
生きています

朝起きてみれば
隣の空き地は
白く覆われて
ただひとつの足跡もない
とてつもなくやわらかい
真新しい道に思われました

そのように美しい世界の下に
冬枯れた草があることを
見えなくなれば
いっときでも忘れてしまえることでしょう

人は
たくさんの事柄を
思い出しながら
生きていきます

雪が降ったのは
いつのことだったでしょうか
日陰を選んで降った
あの雪は
いつまでも溶けずに
心の底に残っています
かたみのように

36.5℃では
雪解けに少し足りないのかもしれません

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