おまえに別れを告げさせてくれ/石田とわ
鳩子よ
おまえが生まれたのは寒さの残る
春と呼ぶにはまだ早い季節だった
忙しさにかまけ、放置していたベランダで
気づいたときにはおまえはもう産声をあげていた
ベランダの片隅でみつけたとき、そっとカーテンを閉じ
見なかったことにしようと項垂れるしかなかった
それでも貧弱なからだで無事に育つのかと
餌はもらっているのだろうか、
死んでしまいやしないかと
ほんとうに心配したものだ
だが心配は杞憂におわり、皐月の風が薫るまえに
おまえ
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