砂浜の男/村田 活彦
 
  舞台中央に椅子がひとつある
  男がひとりすわっている
  男は語りはじめる


おまえさん牛は好きか
そう、おまえだ
牛は好きかと聞いているんだ
牛はすばらしいぞ
何しろ奴ら
全身牛肉でできている

おまえは何でできている
そうおまえ
知っているか
人間は言葉でできている
だから煮ても焼いても食えやしない


どうだこの海岸線
噓みたいに白い砂浜だろう
寄せて返す波
いちどだって同じ音はない
この渚でおれは手紙を書くんだ
書けなかった手紙を書くんだ

もう何年も前
おれの郵便受けに毎週
あの男から手紙が届いた
達筆すぎる
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