天使の声 /服部 剛
帰りの電車に揺られながら、頁を開いた
一冊の本の中にいるドストエフスキーさんが
(人生は絶望だ・・・)と語ったところで
僕はぱたん、と本を閉じて、目を瞑る
物語に描かれた父と幼子をおぶった母は
一枚の絵画のように
日々の貧しい坂道を夕焼け空へと上りゆく
(日々は希望か絶望か?)と僕は問い、耳を澄ませば
母の背から振り返り(キボウ)という幼子の声に
心の中がぱっと明るくなったところで
瞑っていた目は開き
ドストエフスキーさんをそっと、鞄にしまった。
我が家へ続くいつもの夜道を歩いて
「ただいま」とドアを開く
「おかえり」という妻に抱かれた
人より染色体の一本多い周がふりむいて
けたけた笑い、僕の目を見る
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