雪解け/ブライアン
た。川の両岸には大きな堤防が作られている。曇った日だった。まだ、草木の葉が茂っていなかった。それでも、葉は河川敷を覆っていた。父は車を運転しながら、南側を見た。川は南北を貫いている。国境周辺には有刺鉄線が張られていた。ふと、川を覗き込むと、数人の若い男たちが、国境を越えようとしているのがわかった。彼女は視線を逸らした。北側に屹立する小高い山肌に目を移す。葉に淡い緑の色がつき始めていた。ところどころに、桜の花の色が残っていた。父はハンドルを握っていた。前を走る車のテールランプを凝視している。
彼女の手のひらにもみくちゃにされた懐炉がある。彼女は懐炉を手のひらで弄びながら、息を吐いた。息は白かっ
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