夢の署名 /服部 剛
戦中・戦後を生き抜いた
ある詩人が世を去った後
長い足跡のつらなりと
ひとすじの道の傍らに
彼が種を蒔いていった花々が開き始める
今迄の僕は
別の場所で夢を求めていたが
世を去った詩人の魂に出逢ってから
いつのまにか
野の花の微笑む道に立っており
前方の遥かな霞に向かって
どこまでもまっすぐ道は伸びていた
新たな夢が生まれた日
何処からか
世を去った詩人の声が聞える
「青年よ、詩心を胸に旅に出よ――」
「はい、いきます」
その一言だけを
虚空の天に告げて
僕は只
目の前に敷かれている唯一の道を
無心に歩んでいけばいい
白紙に描いた夢の設計図を
懐に入れて――
道の傍らに咲く野の花々が
僕に呼びかける方へ
戻る 編 削 Point(10)