くわい/そらの珊瑚
をきれいに落とされたくわいは
さといもの赤ちゃんのようだった
姑は一瞬躊躇したあと
「角、落としちゃったの?」
と驚きながら笑った
くわいの角は
今年も芽が出ますようにという
縁起物で
食べないけれど必要なものであった
お正月
親戚の誰かがくわいを食べるたび
自分のしでかした失敗が発覚しそうで
びくびくしながら
密かにくわいばかりを食べていた
ほろにがいその味は
あまり好きにはなれそうになかったし
実は今でも好きではない
あの年の芽は出たんだろうか
出なかったのだろうか
それでも一年かけて芽(願い)を育てる作業は
祈りに似ている
本物の宝石は
実は日々の泥のような生活のなかに埋まっているものかもしれない
それから毎年自分で作るおせちに
くわいが欠かせなくなった
義父母が
今年のくわいはちゃんと角がついてるかね、と
あちらの世界から見ているだろうか
いつかみんな笑い話になりますね
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