『母へ』/あおい満月
 
夕焼けに向ける背中にいつも話しかける
あなたの白く暗い眼のなかに
今は何が映っているのか

細く響くラジオと
揺らすグラスの氷の音に
あなたはいつも
何を思うのか

わたしには、
あなたの孤独が見える
けれども
わたしは未来に向かわなければならない

今わたしが出来ることは
あなたに明日を話し続けること
あなたから、
記憶がとぎれないように
あなたが笑顔であるように

あなたの幸せが
わたしの幸せならば

あなたはわたしと引き換えに
その眼から光を失った
光は戻ることはないけれど
あなたの生きる一日一日が
光そのものであるように
わたしはわたしを育んだ
そのあたたかな手を愛します

あなたが手のひらで感じて
眩しいくらいに感じたら
わたしはそれが
何よりの悦びです

夕焼けが終わりを告げて
月明かりがその瞼をやさしく撫でる

明日も、
忙しい朝がはじまります
穏やかな夜のために

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