耳のない魚/月乃助
 
‐‐‐‐ 悪いゆめより その魚は生まれた 


風は
葦原のなか
老女(おうな)が こっくり
こっくり
囲炉裏に ゆれている


それは、川瀬の流れに ながされ ながされ
ながれつく


休むことなく 鱗を光らせ


子のときは、少女になろうと
少女のときは、女になろうと
次に 妻へ、そして、母へ
何かになろうと
心をくだいた


誰もが口にする
言い訳を小石のように 胸にしずめ
律令のような 決まりごとを
後生大事にしてきた


赤い焼ける炭のむこうで、

「 おまえさんは、百足
 いや、蛇かえ 」

「 いや、わしは、
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