誰かがくれた桜じるし/服部 剛
「お先に失礼します」
の言葉を交わしあう金曜の夜
今週もなんとか無事に働けた自分に
「おつかれさん」と一人つぶやいても いい
自分の肉を
飢えた乞食(こじき)に食べさせようと
炎に飛びこむ「白いウサギ」
にはなれなくとも
いままでの自分よりも人に尽くせたなら
たまにはごほうびをあげても いい
帰り道の途中であげパン屋さんの兄さんに
100円玉と交換した紙袋から顔を出す
ほかほかのあげパンを かじる
じゅわっと舌にひろがる甘さは
今週の疲れを癒す まほう です
来週の僕は
いつか絵本で読んだような
ひしゃくに入ったわずかな水を
病の人に届ける少年になれますように
あとかたなく食べ終えた
空(から)の紙袋を見ると
「たいへんよくできました」と
桜じるしのはんこうが
大きく押してありました
*初出:「詩学」(詩学社)’03年4月号(投稿欄)
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