The Tale of Bear/そらの珊瑚
パンケーキが食べたかったんだけど」
「おかえりなさい……」
シャルロットはシモンの胸に飛び込んだ。枯れ草と蜂蜜の香りに包まれていく。
「蜂蜜なら、たくさんあるんだけど」
ウインクするシモン。
「仕方ないわね。特別よ」
今夜は話したいことが山ほどある。うまく話せるかしら。シモンの旅の話も聞きたいし。飲み物は何がいいかしら。そうだわ、アップルラムティーにしましょう。林檎のスライスをシナモンで煮たものに紅茶を注ぎ、ラムを滴らす。甘い香りが彼の旅の疲れをとるに違いない。
シャルロットは店先に出て、くまカフェのプレートを裏返して『closed』にする。今日の『closed』には、おしまいではなくて、はじまり。
森が夜の闇のなかに沈んでいく。空には一番星が光り始めていた。
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