曇りのち曇り/Giton
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古くなった里芋をぐつぐつと煮ていたら
きょうの空のような紅(ぐ)蓮(れん)の毛細血管が
鍋に浮いてきた。朝から暮れ始めている街の
気層はこもこもした灰のかたまりを日がな支え
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それでも雨はふらなかった。あるいていると膠質の淡いシャワーが
空からゆっくりと沈んできたがもちろん雨はふらない
あたまのなかもからだのなかもそのつめたい白い粉で
いっぱいだ。あるき過ぎてしまう…もどっていくとまた過ぎてしまう
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高い墻(しょう)壁に岱(たい)赭(しゃ)色のつたがへばりついてちぢれている
きみがだれだかわすれてしまったがきっと昔会ったこと
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