階段昇降の詩 /服部 剛
だらりと垂れ下がった両足の
Sさんが住む団地のドアを
「おはようございます」と開けてから
僕と同僚で、車椅子の前後を支え
(重たい・・・)と心に呟きつつ
がたん、がたん、と階段を下る
施設の食事を終えた後
トイレ介助で僕がからだを抱え
便器に座る時
「最近、妻も息子も冷たくてねぇ・・・
去年はそこらを歩いてたのに
今は粗大ごみになっちゃった 」
(重たい・・・)と心に呟き
Sさんを支える
怠けた僕は、間違っていた
施設での一日を終えて
帰りのドアへ向かう階段を
僕と同僚で
がたん、がたん、と引き上げる時
踏ん張る足裏に何故か力がみなぎった
両足をだらりと垂らし
うなだれる
Sさんの哀しみを知った日
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