ゲエテの瞳 /服部 剛
 
横浜市戸塚区の伊太利亜料理屋で
葡萄酒(ぶどうしゅ)を一飲みした後、トイレに入る 

  * 

薄明かりの狭い空間で 
蔦(つた)の彫刻のからまる壁に凭れ 
鏡に映る 
ほてった顔の酔っ払いは呟く 

(ここは伊太利亜だ・・・) 

鏡に映る自らの姿に 
ぼんやり重なっている 
ゲエテの瞳は 
遠い過去からそうっと僕に呟いた 

風の導くままに往く伊太利亜紀行の道と 
ひとり旅の歓びを―― 

  * 

トイレから出てすぐの 
壁に飾られた天使の絵を見ながら 
携帯電話を耳にあてた僕は 
受話器越しの嫁さんに言う 

「今、伊太利亜に着いたよ」 







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