波/Porter
 
夜更けの
海には誰もいない

遠くに架かる橋の上で
季節の外れた蛍みたいに
車の光が通り過ぎては消え

動きの止まった観覧車が
隣で寂しく朝を待っている

砂浜へと歩き
波の寄せる際に立ち止まって

すすり泣いているように
静かに繰り返す音に
耳を澄ました

まだ暗闇の中にぼやけた水平線は
それでも遠く広がって

抱きしめ損ねた全てが
その向こうにあるような
そんな気がする

辿り着けない場所が
あるのだとしたら

海はやっぱり涙なんだろう、と思った

悲しみの詩で紡がれた
幾つもの羽根を
その深くに沈めて

雫が頬を伝うように
波は何度も砂浜を濡らす

散らばった星達を映す水面が
やがて冷たい風に煽られ

ぬかるみについた
僕の足跡が
ゆっくりと形を失い

取り戻せない時間があることを
僕は知る
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