からっぽの旅 /服部 剛
なけなしの金を
銀行ATMから下ろして
伊東への旅に出たら
財布も口座も
すっからぴんになってしまった
安月給から食費だけは
嫁さんにあずけているが
幼い息子と3人で
なんとか飯さえ食えりゃあ
「金」なんぞというものは、案外
まぼろしに視えてくる
旅の最後の1日は
財布の中の小銭等をにらみ
帰りの電車の時刻表に目を細め
時間と金を秤にかけるようなあんばいで
はらはら動悸を乱しつつ
最後の小銭で「わんかっぷ大関」を買い
のりこんだ東海道線の夜の車窓は、熱海にて
冬だというのに、海の上には
どばん、ばん・・・!と
大輪の火の花がひらいた
あぁ今宵は何故か
旅の酒に頬も赤らみ
すっからぴんが、こころ酔い・・・
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