雨の子/月乃助
 

「「 さしたらよいのに、


どうしてか どうしても 私は、それを自分の手にしていたことに 気づかない


 うれしくて
少女を抱きしめたくて 跪く
少女は、ちいさな手をさしのべ
私の ぐっしょり濡れたあたまを やさしくなでた


 行人の群れ
傘の花はなく
濡れそぼる誰もが、
手に 手に 傘を持っているというのに


「「 気づかないの?


 その子は、もうずいぶんと先を歩いていて、
ぼんやりと 霞むその背は、
水に流れた 私の姉らしかった


私のにぎりしめる 傘は、もうすでに 錆びがある





           *





 私は、その傘を
さすことが できたのだろうか。








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