午前八時三十五分、恋に落ちて(掌編小説)/そらの珊瑚
は首を紐で日常につながれていて、働く女はハイヒールのかかとの間にできたわずかな空間に秘密を隠しているのです。
全てを展開図にしてみれば、形だけの世界になり、そこには生きていくために寄りかかる厚みがなくなってしまうのです。
そして確実に立体世界は疲弊している。
──白線の内側にお下がりください。
たまに間違う人間がいるでしょう。
内側はあちら側から見て、の意味。
道を踏み外して、線路という奈落に落ちてしまう人々。
そして私はその終焉の片棒を担がされてしまうのです。
とてもかなしいことですが。
発車のベルが鳴ります。
駅という劇場に。
あなたの一日が平凡な一日であるよう、お祈りしています。
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