インド人 吉田 (後)/salco
えるところの自己存在理由を第一義と
し、他の一切を現象と見做す、そんな無執着には至れそうもないのだ。
もし、自分のアイデンティティーが教義と我執とに引き裂かれる時が来る
としたら、自分はちっぽけな方を選んでしまうだろう。もう誰も失いたくな
い。家族の誰より先に逝きたい。わたしは現世の全てが愛おしい。
このように現世利益を重んじる多くの日本人同様、インド人の吉田氏も己
が宗教に固執しない。所謂おふくろの味への切なる郷愁は別として、三十余
年も異土に起居していれば、強い香辛料より五目煮やら揚出し豆腐やらが団
らんの副菜ともなっている吉田氏ではある。
無論、その根は母国で
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