ふゆのうで/そらの珊瑚
冬の夜
わたしのうでは母に貸すものと決まっていた
ほどかれたセーターの毛糸の輪を
うでに通してかかげていると
母はそのはしをくるくると巻き取って
毛糸玉を作る
単純な作業は退屈で よく居眠りをした
退屈な日常こそ
過ぎてみれば輝くことを
あの頃はまだ知らなかった
編みぐせのついた毛糸は
少しちぢれて空気を含みあたたかい
子供の成長に合わせて
編んではほどかれ
ほどかれては編んで
編み継がれていくからだろう
弱いところが
時々ぷつりと切れてしまう
家族も時々ぷつりと切れる
切れたそのあと
また編んでみたくなる
冬の夜
母はもう貸してといわないだろうが
今でもここに持っている
ふゆのうでは糸車
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