A/ピッピ
フォレストやら、スティーブ・ライヒなんかが入っていて俺の気を滅入らせる。最後に行ったカラオケで、アニメの画像が流れる歌を臆面もなく歌っていたお前は、誰だったんだ。あれももう、一年と半年も前の話か。山盛りのポテトが来たときに、頼んだのと違うと言って店員を平謝りさせてたじゃないか。あいつ、いっつも怒ってたな。温厚に見られるのが嫌だと言っていたから、もしかしたら俺の前だけだったかも知れない。あいつが怒るのは別に嫌いじゃなかった。ものすごく論理的で筋道立っていて、見た目と違うな、と言ったらやっぱり激怒していた。あれが悪かったんじゃないのか?「おい、A。聞こえてるのか?」かっこうつけで、そのくせ構ってちゃんで、そうやって、今そっちにいることを今頃懺いて、俺達を鬱陶しがらせようって、魂胆を練っているところだと思うよ。もうちょっと待ってろよ、すぐ行ってやるから。こっちに残した、ふてぶてしい顔の、抜け殻みたいな冷たい肉塊に、俺は微塵も興味がないんだよ。くゆらすメントール、酒が飲めないあいつが景気づけに飲んでいた、ウィルキンソンのジンジャエール。その一飛沫が、あいつの瞳のように光り輝いている。
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