リルケから若き中島敦への手紙/すみたに
 
レッドであり、エリートであったから、
 このステレオタイプは彼に関してはあながち間違えではない。
 彼の博識と、文章感覚における論理はまさしく一級品である。
 
 その彼の『山月記』は主人公の李徴が姿をくらましてから幾年も経ち、
 そのうちにかつての同僚が虎となった李徴と遭遇し、問答をする。
 最後に虎となった李徴は言葉を、
 詩を、
 ニンゲンを失くしてしまう前に一つの漢詩を遺言としてものす。
 これが大まかな筋である。
 
 これはどうやら中国は唐の時代に書かれた変身譚「人虎」に取材したようだが、
 そういったパロディ、換骨奪胎、変奏というのは文学手法の神髄であるが、
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