カーペットのこと/はるな
 

道路には色とりどりに車が行き交い、コーヒーの自動販売機からかすかに匂いがしている。すごく遠くのほうで鳥のようななにかが羽ばたいているのも、見える。
わたしは、ああ、と思い、それだけ。

いつもいつの間にか夜が来ていて、うちに帰り、皿をあたため、夫が帰る前に窓と床を拭く。夫から夕食はいらないと連絡があり、友人からながい電話があり、ことばはばらばらの雑音になり、我に返る。いつから我を忘れているのだったか、よくわからない。ただ、1日に2度か3度、ふと我に返り、海をながめ、ああ、と思う。

―昨日の夜電車がとまってさ。
昼間、向いの机のひとたちが話していた。
―1時間も缶詰だったよ。人身事故だって。
―死ぬならほかのところで死んでほしいですよね。
―ああ、どっか迷惑かかんないところで。

死ぬなら、ほかのところで死んでほしいですよね。
その言葉を聞きながら、気を付けよう、と思った。
ここは、わたしだけの世界ではないんだった、と思い、夜になっても、何度も、注意深くいよう、と、言い聞かせながらカーペットを撫でている。

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