境界A/緋月 衣瑠香
 
鏡の中で紅潮した私がこちらを窺っている

小柄な体から伸びる肢体は
年に見合わずに隆々と天地に抗う

風を切る快さ
山の心地よさと厳しさ
教えてくれたのは父だった

いつかの黄ばんでしまったスケッチブック
その中に広がるのは約三十年前の山の景色
知らないけど見慣れた世界
雷鳥の親鳥が卵を傍らにおく

私の耳が目が
父の体に染みついた記憶を吸いこんでいく
花を咲かそうと実をつけようと
こんこんと私の全身へと運ばれていく

その間 父は衰えていく
消費していく私
消費されていく父

小学一年の秋 休日夕方
父に伴走されながら走り方を教わった
初めてのマ
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