失われた私のしっぽ/そらの珊瑚
犬に
おやつをあげました
これきり、と言うと
少し節目がちになり
それまで動いていたしっぽが
ぴたりと止まります
正直な犬
おまえは決して嘘をつかないから
嘘をつく人間は
失われたしっぽのことを思い出して
切なくなるのです
ほんとは人間にもしっぽはあったのです
けれど嘘をついてしまうので
しっぽはいたたまれなくなって逃げていきました
おまえが子犬だった頃
小さなしっぽをぶるんぶるんと
ちぎれるほどふりながら
しろつめぐさの咲いた丘から
駆けてきたのを思い出します
ほんとのことが満ち溢れ
私はそれを抱きしめるだけで良かった季節
私はそれを愛するだけで良かった季節
あの時私の失われたしっぽがぶるんぶるんと
五月の風にのって甦るのを
きっとおまえは知っていたのでしょうね
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