聖火 /服部 剛
地下鉄のホームに
吹き抜ける風の方に
貼られたカラー写真の新聞から
「オリンピックメダリスト・銀座でパレード」に
押し寄せた人波の歓声が聴こえてきた
夜明けと共に、眠い目をこすり
重たい腰をえいと上げ
ビル群の影にかつかつ靴音を鳴らし
日々の勤めに向かう
すずしい顔した人々も
体温を忘れた時代の中で、求めている
今年のロンドンで
卓球の愛ちゃんが「よっしゃ!」
と拳を握る
一昔前のロサンゼルスで
柔道の山下選手に判定が出て
諸手をあげる
昔々のベルリンで
ラジオのアナウンサーが
「マエハタ、ガンバレ!」と叫び
プールの壁に指先を突ける
あの瞬間を
誰もが一見、辺鄙な日常に飽きながらも
等しいフィールドに立つ
選手だと知った日
こころに聖火の灯った僕は
夜道を日々の旅路に重ね
両脇から囁く街灯の間を
頬に汗を垂らし、何処までも歩いた
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