メモワール/そらの珊瑚
はないが
母はその傷を見るたび
もうやり直せない自分の過失を悔やんでいたに違いない
今は子離れして弟と手をつなぐなんてこともない母が
そのことを思い出すことがなくなりますように
小さい頃公園に かいせんとう と呼んでいた遊具があった
丸い大きな輪にぶら下がってくるくる回る仕組み
ある日数人で激しく回って遊んでいると
理由はわからないのだが
私以外の子が全員手を離してしまった
私は回旋する力にひとり取り残され
重みで輪は傾きしばらく地面に引きずられた
手を離せばいいものを どんくさい
その時出来た傷は今も足にあるが
それを見るたび、少しだけ切なくなる
あの時 おいてけぼりにされた自分を思い出して
回旋塔はその後撤去されてしまった
治っても消えない20センチほどの手術痕が
私の胸にある
時間をかけてゆっくりと薄くなってきた
それを見てももう辛くはない
それどころか愛おしいくらいだ
いろんな傷を吸収して
今 ここに存在する
このくたびれた身体もまた
愛おしい
戻る 編 削 Point(33)