紙の民/そらの珊瑚
 
一枚の紙の軽さを想う
一冊の本の紙の重さを想う
数冊の本の紙の重さをさらに想う
いつしか私自身の重さを軽々と超えていく


一枚の紙の厚みの薄さを想う
一冊の本の束ねられた紙の背表紙の厚みを想う
数冊の本の紙の厚みをさらに想う
それは私自身の高さを軽々と超えていく

ここに一枚の白い紙がある
やがてそこに文字が書かれる
重なり合って綴じられて本と呼ばれるようになる
それは私自身の指を使ってめくられていく

めくられたそばから
パルプは羊の胃でどろどろに溶かされ腸から吸収されていく
いくつかの変換ののち
温かい熱がそこから生まれ
水蒸気となって空を漂い
やがて森へ還っていく
 
一枚の紙に包まれて
身体をキャラメル化しながら
睡りにつこうとしたその夜に
一冊の本が訪ねてきた
初めて会ったようでもあり
どこか懐かしいインクの匂いを漂わせて

私は紙を愛しているのだろう
私は本を愛しているのだろう

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