渋谷の2Fで/番田 
 
手だてになるようにも思えた。


例えば好きな人といると、何をすればいいのかわからなかった。手を繋ぐのはとても恥ずかしい。だから、いつも隣を歩いていることが、僕の心を落ち着かせた。話すことはあまりなかった。こんな僕らはどのようにしてつきあうことになったのだろう。友達の後押しの方がよほど強かったのかも知れない。彼らの顔を、お互いにあまり潰したくはなかった。それにそんな風にして結婚しているような人のほうが周りの大多数だったのだから。雑誌で見かけたようなこぎれいな店に入り、僕らはドラマで見かけたような会話と、口づけを交わしてみたかった。そうして、僕はまたひとり、家路を結ぶ電車に乗っていた。疲れと不安が、月曜日へ向かう瞼にはのしかかっていた。家に帰ったらその子が言っていた小説を読んでみようかと思っていた。あまり、そんな名前の作家自体、聞いたことはなかったが。


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