露草/そらの珊瑚
秋が始まる頃
ようやく
旅人が帰ってきた
ちょいと
長い散歩だったかな
と
悪びれもなく
おかえりというのも
待ち焦がれていたようで
まったくもって
しゃくなので
おみやげは?
と聞くと
くたびれた三角の帽子の中から
一輪のあおい花を取り出してみせた
双子のような花弁の
ひとつは孤独
ひとつは自由
ぼくが最も愛する花なんだ
とても瑞々しい露草だったのに
冬が始まる頃
しおれてしまった
仕方ないさ
魔法の効き目は永遠じゃない
と
彼は言ったが
さほど残念そうにはみえなかったし
実際そうなんだろうと思った
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